2025.04.01
2025年
戦後80年 大学生が撮る熊谷空襲 「記憶継承考える契機に」 「はだしのゲン」原点、卒業研究で制作
戦後80年に合わせ、さいたま市の女子大学生が1945年8月14日に始まった熊谷空襲をテーマにした映像の卒業研究に取り組んでいる。戦争に関心を持った原点は不朽の名作漫画「はだしのゲン」。「人の心を動かす作品にしたい。若者が戦争の記憶継承について考えるきっかけになれば」と撮影を進めながら構想を練っている。(菅原洋)
女子大学生は目白大の松田みなみさん(21)。この4月に4年生になった。松田さんは小学校高学年の頃、学校の図書室にあった「はだしのゲン」を偶然手に取った。
45年8月6日、広島。原爆投下で倒壊した家の下敷きとなり、ゲンの父やきょうだいが炎に包まれる。目の前で家族が焼け死んでいく姿を見て、母は狂乱して笑い出す。ゲンは必死に母を避難させようとする。周囲では被爆して焼けただれた人々がさまよう-。
「あまりに残酷なシーンに心が痛んだ。家族が目の前で亡くなるなんて、考えたくもないと思った」。松田さんの脳裏にはこの場面が焼き付いている。その後も戦争をテーマにした映画などを鑑賞してきた。
県立伊奈学園総合高校を卒業し、「テレビが好きで、映像作品を作りたい」と同大のメディア学部(東京)に入学。映像制作のゼミに進んだ。卒業研究のテーマは今年に入り、「県内最大の被害があった熊谷空襲なら自宅から通って撮影や取材ができる」と決めた。テーマは「戦争の記憶継承のためのドキュメンタリー番組の制作」だ。
2月末に熊谷市に訪れ、市民団体「熊谷空襲を忘れない市民の会」の代表を務め、戦争で父を亡くした米田主美(かずみ)さん(79)らに相談。3月29日、市内で同会の会員らが案内・説明役となる「熊谷空襲戦跡めぐり」に参加し、撮影も始めた。空襲関連の展示がある熊谷市立図書館の郷土資料展示室や、空襲で焼失した県立熊谷女子高校に残存する当時の門などを見学した。
「空襲の被害を伝える物はかなり少ないと分かった。映像や人の記憶により、80年前の悲惨さを作品にするのは難しい」。松田さんは実感を込めた。
今後の撮影については、「空襲体験者などのリアルな証言がやはり重要。8月の空襲犠牲者を追悼する灯籠(とうろう)流しは、幻想的な情景が撮影できそう。映像から若者に関心を持ってもらうきっかけにしたい」と考えを巡らせる。
作品は数十分の長さとなり、来年にも動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開予定。松田さんは映像制作会社などへの就職活動を進めており、「戦争への関心を持つ若者が少ない中、今回の作品を自分のキャリアで生かしたい」と夢を膨らませている。
米田さんは「戦後80年のタイミングで撮影した作品が、若者などに空襲の記憶を広めてくれればと思う」と制作を見守っている。
2025年4月1日 東京新聞 朝刊 埼玉版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/395561