2025.08.15

最後の空襲
熊谷80年前の記憶 体験者の語り
大学生が取材 映像の力で若い世代に 目白大・松田さん
卒業研究で制作

戦後80年に合わせて熊谷空襲をテーマにした映像の卒業研究に取り組む、さいたま市の大学生が、熊谷市で空襲の体験者から聞き取り取材をした。学生は「体験者は高齢化しており、今ここで私たちの世代が中心になって記憶を残し、継承しなければ」と意欲を見せている。(菅原洋)
 この学生は目白大4年の松田みなみさん(22)。広島の原爆を描いた不朽の名作漫画「はだしのゲン」を読んで戦争に関心を抱き、メディア学部(東京)で映像制作を学びながら、今春から熊谷市内に通って卒業論文に当たる卒業研究を進めている。

 7月末のこの日は、松田さんが協力を得ている市内の市民団体「熊谷空襲を忘れない市民の会」から紹介された市内の坂本孝子さん(84)に取材した。

 坂本さんは空襲当時4歳。松田さんが空襲の様子を聞くと、坂本さんは「防空壕(ごう)の中に避難し、焼夷(しょうい)弾の音はあまり聞こえなかった」と振り返った。ただ「一緒に中にいた母は未熟児で生まれた弟がぐったりしていたので気付けのためか、出にくい母乳を顔にかけようと搾り出していた」と極限状態の記憶を語った。

 「絶対に戦争をしてはいけない。なぜ戦争になるのかと思う」。坂本さんは強調した。

 松田さんが「若い世代への思いは」と尋ねると、坂本さんは「各国の紛争では、一時的に停戦しても、また始まることがある。世界のどの国も戦争を止められないのが悲しい。戦争をなくすように努めてほしい」と求めた。

 松田さんの取材には、カメラ撮影などでともに同じゼミで学ぶ4年の西川由珠(ゆみ)さん(22)=加須市=と山口愛萌(こころ)さん(22)=東京都=が協力。終了後に松田さんは「今の生活にはない経験が聞けた。受け継ぐことは簡単ではないが、映像の強みを生かしたドキュメンタリーを作りたい」と語った。松田さんは映像制作会社に就職が内定している。

 坂本さんは「若い人たちが戦争に興味を持つのは素晴らしい。戦争はいけないことだと伝えたいと思って、取材を引き受けた」と話していた。

 松田さんは他の空襲体験者や、今月16日に熊谷市で予定される空襲犠牲者を追悼する灯籠流しなども取材し、数十分の作品にまとめる。作品は来年にも動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開される予定。

2025年8月15日 東京新聞 朝刊 埼玉版
https://www.tokyo-np.co.jp/article/428695