2024.10.01

大学キャンパス×テント=「我慢しない避難生活」法政大研究室が検証
自治体との連携に課題

◆プライバシー・感染症対策に配慮 災害時の新しい選択肢

 法政大の水野雅男教授の研究室が、災害時に大学キャンパス内の広場にテントを張って過ごす、新しい避難生活のあり方を検証している。体育館での雑魚寝を代表例とする日本の避難所の劣悪な環境は長年問題視されてきた。テントを使うことで十分な居住空間とプライバシーを保ち、感染症対策にもつなげられると期待する。取り組みの可能性と課題は。(中川紘希)

 14、15日に東京都町田市の多摩キャンパスで季節ごとに行っている実証実験があった。千平方メートルの芝生広場に学生や募集に応じた一般の参加者ら35人が、16張りのテントで一晩を過ごした。

 昨夏の実験では、テント内が暑くなり汗でぬれたシートの上で眠れない参加者が出た。今回は中に簡易ベッドを置き環境が改善されるか試した。研究室に所属する2年の白羽優之介さん(20)は「寝心地は良くなったけど『他の人のベッドがきしむ音が気になる』という意見が出た。今後も最適な機材やテントの配置を考えたい」と話した。

 研究室では、この避難生活が、同じ施設内での生活が難しいペット連れや子連れにも向いているとみている。実験に犬2匹と参加した宮川満裕さん(66)=埼玉県狭山市=は「災害時、飼い主はペットを置き去りにするか避難所を諦めるかの二択。避難所が使いやすくなる良い取り組みだ」と評価した。

 水野教授が検証を始めたのは2019年度。イタリアが災害時にテント村を置き日常生活に近い避難生活を目指していると知ったためだ。イタリアでは国が主導して大型テントを家族ごとに割り当て、トイレやシャワーのコンテナも設置。キッチンコンテナで温かい食事を調理するという。

 一方の日本。難民キャンプなどの支援の国際水準「スフィア基準」では「1人あたりの居住空間が3・5平方メートル」と定められているが、国は避難所運営のガイドラインで広さを定めていない。東京都は防災計画で「2人あたり3・3平方メートル」を目安と定めているが、国際基準には満たない。

 避難所の問題に詳しい新潟大の榛沢和彦特任教授(心臓血管外科)は「雑魚寝はコロナの拡大、エコノミークラス症候群につながり災害関連死を引き起こすにもかかわらず、実際の避難所の環境改善は長年進んでいない」と指摘。「能登地震の避難所も災害から3週間まで、段ボールベッドではなく、地べたや毛布の上での雑魚寝の状態だった」と話す。

 水野教授が避難生活の代替案として注目した大学キャンパスは、広場にテントを置けば、感染症に配慮した居住空間ができ、大学内のシャワーや食堂、図書館などを利用して生活の快適度を高められる利点がある。

 東京都は20年度、各大学との連携事業の一つとして水野教授らの検証に支援金300万円を出したことがある。ただ都の担当者は「支援金の取り組みは必ずしも事業化を目指しておらず、現在は実施していない」と述べた。

 町田市の担当者は「検証に関心を持っており、避難所としてのテント活用を検討している」と注目する。水野教授は「検証を重ねてデータを行政に示し理解してもらえればと思う。将来的には他の大学にも広げ、我慢しない避難生活を当たり前にしたい」と話した。

 前出の榛沢氏は「市町村が避難所を全て管理することには限界がある。物資の調達方法や受け入れる避難者の決め方など課題はあるだろうが、新しい選択肢として期待できる」と話す。「自治体では外部の組織に避難所運営を頼りにくい。国が委託する大学や民間団体を定め、お墨付きを与えるべきだろう」と述べた。

2024年9月29日 東京新聞朝刊

https://www.tokyo-np.co.jp/article/357135