2026.03.02
こちら特報部 反核の「財産」散逸を防げ(下)
後世に残すのは社会の責務 自治体、市民の協力が必要 昭和女子大
8年前から継承プロジェクト 記録に学べば「未来は変えていける」
被団協の工藤雅子事務室長は「独立した事務所を構えている団体は少なく、個人宅で資料が保管されている場合も多い。会長が亡くなるなどして解散や活動休止となり、資料の所在をたどれなくなるケースもあった」と明かす。
被団協は15年ほど前から、保管・保存するための資料整理を各団体に呼びかけるが、ほとんどの団体が現在まで未着手になっているという。工藤氏は「資料を残す重要性がまだ浸透していない。忙しさもあり、各団体に『どこに、どんな資料をどう残すか』を中心的に考えられる人がいないのも要因だろう」とみる。
被団協と連携し、被爆者の証言や活動記録を収集してきたNPO法人「ノーモア・ヒバクシャ記憶遺産を継承する会」(東京)で資料整理を担う栗原淑江さんは「いったん廃棄してしまうと、二度と見られなくなる。まずは、『何を保存しておくべきか』をあまり考えずに残してほしい」と呼びかける。
被団協の資料を中心に約2万点ある「継承する会」の資料庫には、各地の団体が発行した証言集なども一部保管される。ただ栗原さんは「公民館の図書室に設けられる『地域の戦争資料』のような一つのコーナーでもいい。各団体が活動する地元に保管、公開の拠点があれば、地域住民もアクセスしやすい」と考える。
継承は「被爆者だけの責務ではない」と強調。「被爆者は自分たちのためではなく、悲惨な被害が繰り返されないために運動してきた。その足跡は、私たち皆の財産だ。自治体や市民団体、大学なども協力し、整理や保存に知恵を絞ってほしい」と訴える。
被団協など被爆者の核廃絶運動や証言などの資料を整理し、次世代に引き継ごうとする動きは、大学でも起きている。
昭和女子大(東京都世田谷区)では、被団協に関連する文書について「歴史資料」としての理解を深めようと、2018年に「戦後史史料を後世に伝えるプロジェクト」を発足させ、資料の整理や分析、議論、企画展示などを通じて、戦後の被爆者の歩みや被爆者運動の意義を社会で共有しようと奮闘している。
学生有志とともにプロジェクトを担う昭和女子大の松田忍教授(日本近現代史)は、広島、長崎への原爆投下に対する政府のこれまでの対応について「施策の範囲が『健康』への配慮に限定され、原爆が人間に対して何をもたらしたかを十分に捉えることができていない」と指摘する。
プロジェクトには、各年度ごとに学生が10~15人程度参加している。松田氏は、プロジェクトの意義について「参加者の議論の質は年々深みを増している。学生にとって、原爆は『あの日』という点で捉えていたものが、その後に暮らす世界の土台の部分になっていることを知る機会になる」と強調。学生は、現在の社会が原爆投下と「地続き」だという事実を認識できていると話す。
松田氏は、被団協関係者など被爆者が声を上げてきたことの成果について「日本国民が戦後、なぜ核を保有しようという意識にならなかったか。その時々の被爆者の活動の積み重ねでもたらされたからだ」と解説。被爆者が残した資料・記録を後世に引き継ぎ、記載内容を社会全体で共有し、記憶し続けることの重要性についてこう力説する。
「『核とは恐ろしいものだ』という基本的な理解は、被爆者たちの(活動の)選択と勇気によって社会に定着してきた。人間の選択によって未来はつくることができるし、変えていける。資料や記録はそのことを教えてくれる存在だ」
2026年3月2日 東京新聞朝刊 特報面