2025.06.17
TOKYO発 ともに考える
未来の高島平 団地のニーズ変化
大東文化大生が解決策
入居開始から半世紀が過ぎた高島平団地(板橋区)。入居者の減少と高齢化でニーズが変化し、駐車場の利用率が低く、子ども向けのプールが使われていないなど敷地の有効活用が課題だ。そこで、近くの大東文化大の学生らが三つの場所の活用策を検討し、提案した。社会学的な見地から、コンセプトは「すべての人に寄り添って」-。
「若い世代が考える、既存の枠組みに収まらない自由で柔軟な発想を」。高島平団地の賃貸住宅を管理する都市再生機構(UR)がこう呼び掛け、大東文化大の飯塚(めしつか)裕介准教授(都市計画)と昨年度の2、3年生7人が社会学演習の授業の一環として取り組んだ。
対象となったのは、(1)団地の南東端に位置する2階建て駐車場(2)管理サービス事務所の目の前にある「カバさんプール」(3)都営三田線高島平駅から比較的近い資材置き場-だ。
昨年7月、学生らは団地を視察し、「小さい子どもが意外と多い」「若者向けにリノベーションした部屋はおしゃれ」と多様さに驚いたという。外国籍の住民の増加も背景に、「全員が納得できるようなニーズをつかむ必要がある」と、マーケティングで使われる架空の住民像「ペルソナ」を7人設定した。
ペルソナは、小学生1人を育てる35歳シングルファーザー、看護の外国人実習生である25歳女性、ひとり暮らしの75歳男性など。住民になりきり、どんな施設があったらいいかアイデアを出し合うと、需要の相反が生まれると気付いた。
たとえば、にぎわいを願う住民もいれば、静けさを求める住民もいる。全員の生活が豊かになるためにどうしたらいいか。学生代表の豊田真都(まひろ)さん(現4年)は「みんなの思いを詰め込みたくて、いい意見同士がぶつかり合った」と話す。
この取り組みは、産学連携プロジェクト。学生同士の議論のほか、URやトヨタモビリティ東京など高島平のまちづくりに関わる企業の社員とも計6回の研究集会で話し合った。
企業の社員から得た意見「時間分けやエリア分け」を踏まえ、今年3月の発表会で活用策を報告した。(1)の駐車場はスロープのある芝生広場とし、携帯電話などの充電ができるカフェ「チャージセンター」を設ける。夜はバーに営業スタイルを変える。報告の際は学生のスケッチと図面を基にした拡張現実(AR)や作った建築模型を披露した。
(2)のプールは、家事が苦手なシングルファーザーや日本語を学びたい外国人など、悩みがある人と役に立ちたい人をマッチングする「お困りごとセンター」に一新。(3)の資材置き場は「団地だからできないことを解消する場所」と位置づけ、楽器演奏やダンスができるスタジオ、レンタル菜園や大工作業場を備える「孫の手センター」とした。
学生と議論したURの担当者は「普段の業務では思いつかないような発想に触れることができて、とても参考になった」。飯塚准教授は「学生のアイデアをさらに育てるために、地域住民の皆さんの生の声を聞くといった取り組みが必要だろう」と今後を見据える。
高島平団地
1972年入居開始。5~14階建ての64棟に計1万170戸(賃貸8287、分譲1883)が入る。高度経済成長の最晩期、日本住宅公団(現UR)が施工し「東洋一のマンモス団地」と呼ばれた。団地が大半を占める高島平2、3丁目の人口はピーク時の80年の約6割に当たる1万7998人、65歳以上の高齢化率は区全体より19ポイント高い41・6%(6月1日時点)。賃貸の一部をタワーマンションに建て替える計画が進んでいる。
文・増井のぞみ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/411721
2025年6月17日 東京新聞 朝刊 東京発