2025.06.16

TOKYO発 2025年
戦後80年 早大「演博」 演劇×戦争
若者が問う 初の取り組み 沖縄戦 基地問題 原爆 東京裁判

演劇による第2次世界大戦の表現をテーマとした企画展「演劇は戦争体験を語り得るのか-戦後80年の日本の演劇から」が早稲田大学演劇博物館(通称「演博(えんぱく)」、新宿区西早稲田1)で開催中だ。日本を代表する演劇研究拠点で初めての取り組みで、企画したのは20、30代の3人の研究者。若手の視点が注目される。
 うじがわいているんです。眼玉を食い破って、そこからのぞいたうじが私を見ているんです

 (沖縄戦の悲惨さを描いた「ひめゆりの塔」=作・演出菊田一夫、1953年宝塚歌劇団雪組)

 「水をくれ、水をくれ」。はじめて俺が覚えるコトバだ

 (長崎原爆を描いた「パンドラの鐘」=作・演出野田秀樹、NODA・MAP、1999年)

 …その原子核エネルギー、兵器に利用出来んかな?

 (戦中の日本の原爆開発計画に触れた「東京原子核クラブ」=作マキノノゾミ、演出宮田慶子、2012年最終公演)

 仮設の壁に抜き書きした41作品のせりふの一部だ。

 展示は他に、公演ポスターや戯曲原稿、つり下げられた鐘を原爆に見立てた「パンドラの鐘」の舞台美術模型や舞台映像など計約150点。戦争を体験した作家の戯曲をはじめ、戦後世代のアングラ演劇や、つかこうへい作のシニカルな視点がユニークな「戦争で死ねなかったお父さんのために」の文学座公演(1974年)の写真もある。

 異色なのはパネルで概要を紹介した「ツアー・パフォーマンス」の一例。2008年の「高山明/Port B『サンシャイン62』」だ。東京裁判で戦犯とされた人が収監された巣鴨プリズン(豊島区)跡地周辺を一般参加者が地図を頼りに巡る。途中で東京裁判について関係者のインタビューを聴くなどした参加者が最後に主催者から自らの考えを問われるというもの。

 沖縄の基地問題では、22年初演で高い評価を得た沖縄出身の劇作家、兼島拓也作「ライカムで待っとく」の展示もある。

 今回の展示を提案したのは昨年、演博の助手に採用されたばかりの近藤つぐみさん(33)。「戦後80年の節目であり、ロシアのウクライナ侵攻をはじめ世界各地で戦争が続く中、やるべきだと考えた」。いずれも大学院の博士後期課程で学ぶ矢内有紗さん(26)、関根遼さん(26)と、1990年代生まれの3人でチームをつくり、企画を練り上げてきた。

 近藤さんによると、展示は、一般社団法人EPADが文化庁などと進める、舞台芸術アーカイブとデジタルシアター化支援事業の近年の成果で可能になった。「それぞれの劇団等が所蔵していた過去の舞台映像が集められ、若い研究者が上演内容を調査することが飛躍的に容易になった」

 企画チームの個性や若さはどう生きているのか。

 アングラ演劇を担当した矢内さんは「直接的な戦争描写がない作品でも一部のせりふに戦争の影が感じられることを説明した」という。近藤さんは「現代の戦争を意識している矢内さんならではの視点」とみる。

 関根さんは「ツアー・パフォーマンス」を取り上げた。近藤さんは「年長の研究者なら必ず選ぶとはいえない作品」と指摘。若い感覚の反映とみる。関根さんは「私も遊びに行ったことのある池袋という街と、戦争とのかかわりを参加者が実感する表現だ」と話す。

 3人は、現在も戦争が各地で続いていることから表題を「語り得るのか」と現在形の問いにしたという。

 8月3日まで。入館無料。午前10時~午後5時(火・金は午後7時まで)。18日、7月2、16日は休館。

文・竹島勇

https://www.tokyo-np.co.jp/article/411473
2025年 6月16日 東京新聞 朝刊 東京発