2025.10.27
TOKYO発 スーパーなアート空間 多摩美大が空き店舗取得、再生へ 美術展開催
「日常性と非日常性が交錯」
アートとスーパーマーケット。縁のなさそうなこの二つを取り合わせた施設ができた。かつて食品卸売りのスーパーだった建物で、将来は美術館になる予定。現在、美術展が開かれており、早速、町田市に足を運んだ。
人や車の往来が絶えない通りにある「多摩美術大学BLUE CUBE」(町田市小山ケ丘6)。青い外壁は、ドイツが本社の卸売りスーパー「METRO(メトロ)」多摩境店の名残だ。
この店舗跡が、多摩美術大の八王子キャンパス(八王子市)の近くで行き来しやすいことから、同大が2022年に土地と建物を取得。大学美術館を含む複合施設として利用することに。翌年、多摩市内にあった大学美術館の事務所を移転し、収蔵品の保管スペースにした。今後数年間で、スーパー時代の構造や設備を極力残して改修し、展示機能を備えた美術館をオープン予定だ。
「BLUE CUBE」は天井の高さが6メートル、広さは2900平方メートルあり、テニスコート10面分のワンフロアの建物だ。現在、大学主催のグループ展「EXPLOSION&EXPANSION 爆発と拡張」を開催している。
「肉」「魚」などの売り場を案内する赤や黄色の派手な看板類はほぼそのまま。スーパーのたたずまいを色濃く残す空間に、学生や助手などアーティストの卵たち13人と3組が作品を展示している。
会場で目に飛び込むのが、天井高を目いっぱい使ったテキスタイル(布地)作品。テキスタイルデザインを学ぶ4年生、河合音和さん(22)、水野ねねさん(21)、湯浅薫子さん(21)の3人は、自作なのに「大きくてびっくり」と口をそろえた。青やピンク、緑に染められた生地について、河合さんは「スーパー時代の看板がカラフルで、そのきれいな色彩を表現しました」と解説してくれた。
冷蔵・冷凍食品用の陳列棚は、作品のショーケースに変身。彫刻学科4年で動画クリエーター、のえのんさん(22)は実演で使うレコードを並べた。音と彫刻をテーマに作品を制作しており、盤面を彫ったり絵を描いたりしたレコードを再生し、ノイズを表現している。「元スーパーという空間に残された冷蔵庫やライトをそのまま生かして展示する感覚が新鮮でした」
スーパーの営業は06年から21年まで。床には通路を示したテープや計器類の跡があり、買い物客でにぎわった往時をしのばせる。「床を見て、人の歴史があったことを示す痕跡と感じた」と話すのは大学院で工芸(陶)を研究する檜木(ひのき)小春さん(22)。古代遺跡を想起させる陶製の三角すい状のオブジェ3体を制作した。ガラス研究室副手の池上創さん(25)は最大で高さ4メートルの大型ガラス作品群を出品。「寂しげな廃虚に芽生えた生命体をイメージできる展示になった」と満足げだ。
展覧会監修者の大島徹也美術館長は「生活に身近な物を販売するスーパーの日常性と、美術が持つ非日常性が入り交じる不思議な空間になった。6メートルの天井をこれほど広くぶち抜いた展示会場はめったにない。出品した作家には、この広さに負けない作品を制作してもらった」と話す。
展示は11月3日まで、開館は正午~午後5時(入館は午後4時半まで)。27日は休館。入場無料。
2025年10月27日 東京新聞朝刊 東京発
https://www.tokyo-np.co.jp/article/444654