2020.05.12

9月入学「格差解消できず」
日本教育学会 懸念声明

記者会見する日本教育学会の広田照幸会長(右)と東京都立大の乾彰夫名誉教授=11日、文科省で

新型コロナウイルス感染拡大で休校が長期化する中、学習遅れの打開策として浮上した9月入学制について、日本教育学会が11日、慎重な検討を求める声明を出した。緊急事態を理由に利点のみを見て、財政負担や制度上の課題に目を向けないまま議論を進めても教育格差は解消できず、子どもを混乱に巻き込むだけだと強い懸念を示した。

 「ものすごく大きなメリットがあるわけではないのに、これだけのお金と制度的混乱を覚悟してやるのか」。教育学の専門家からなる日本教育学会の広田照幸会長(日本大教授)は文部科学省で十一日に行った記者会見で、大学生がいる世帯の負担増の試算データを一例に挙げながら訴えた。

 広田氏によると、制度導入で大学卒業が三月から八月になった場合、家庭では五カ月分の生活費三十三万円が余計にかかるのに加え、学生が四月に就職すれば得られていた給与百五万円が入らない。ほかにも、小学校から大学までの制度移行に伴う教員確保や学費の穴埋めなどの総額は兆円単位で、就学前の保育延長といった課題も生じる。

 九月入学制を巡っては宮城県など有志の知事十七人が政府に導入を要請する共同メッセージを先月発表。小池百合子東京都知事や吉村洋文大阪府知事は、欧米諸国などと合わせることで留学などがスムーズになる意義は大きいとする。

 インターネット上では、高校生らが「自宅での学習には限度がある」とし、始業時期を移して学びの仕切り直しを訴える。それでも、会見に同席した東京都立大の乾彰夫名誉教授は「九月にずらしても格差は解消できない」と語る。

 休校措置は、そもそも実施しなかったり、既に再開したりした地域がある。休校が続く地域でも、オンライン学習のためにパソコンや通信環境を整備済みの学校がある一方、多くの学校は対応できず、ばらつきが大きい。そんな中で九月入学に踏み切っても期待する効果は得られず混乱を生むだけだとする。

 とはいえ、同学会にも状況を一変させる妙案はなさそうだ。乾氏を中心とした特別委員会で、学習遅れへの対策を含む提言を二十二日に公表する方針だが、広田氏が一案として紹介したのはオンライン学習の環境整備の推進。文科省は既に全小中学生が一人一台のパソコンを使えるよう予算を確保し、機器の調達を進める段階に来ている。

 仮にオンライン学習が定着しても、修学旅行や体育祭など教科学習以外の学校生活の代替は難しい。萩生田光一文科相は「授業時間数だけ確保し、前に進むことで本当にいいのか」と述べ、九月入学という選択肢が解決策になり得るとして検討の必要性を強調する。

 安倍晋三首相は「前広にさまざまな選択肢を検討したい」とし、六月上旬に政府としての方向性をまとめる考え。

2020年5月12日付 東京新聞