2023.05.30

かながわ未来人(みらいびと)
地域活動通じ自分磨き

◆神奈川大サッカー部監督
大森酉三郎(おおもり・ゆうざぶろう)さん(53)

 子どもの学習支援、高齢者対象のスマホ教室、商店街のごみ拾い…。選手たちは地域活動に参加することでコミュニケーション力や責任感を身に付けていく。「社会性が高い選手はプレーでも活躍する」との確信の下、ユニークなサッカー指導を続けている。

◆コミュニケーション力や責任感育む

 茅ケ崎市出身。藤嶺学園藤沢高、中央大でサッカー部に所属し、卒業後は指導者の勧めで海上自衛隊に入り、厚木航空基地を拠点とする「厚木基地マーカス」でプレーした。職務では航空機の電子機器や滑走路の整備などを担当。「飛行機を飛ばすのはパイロットだけでなく、多くのサポートがある」と実感した。

 同時に「サッカーでも役割分担があるのに、自分が点をとる、ボールを触ることしか見えていなかった」と気付いた。サッカー以外はパチンコや夜遊びが中心だった学生時代。社会で自分の役割を客観的に捉える経験をできれば、サッカーでももっと上に行けたのではと感じるようになった。

 「自分に不足していた部分を伝えたい」。そんな思いが募り、二〇〇四年、神奈川大サッカー部の監督に就任。商店街でのごみ拾いや子ども向けのサッカー教室などの地域活動を始めると、サッカーでも、周りの状況を適切に把握したプレーが増えた。県リーグに所属していたチームは〇八年、関東大学一部リーグに昇格する急成長を遂げた。教え子から十人ほどがJリーガーとして羽ばたいた。

 一〇年からいったん大学を離れ、Jリーグ湘南ベルマーレのほか、学校などを運営する星槎グループで勤務。通信制高校のサッカー部の生徒らと、高齢者の介護予防や休耕地での畑作業などに取り組んだ。

 一九年から再び、神奈川大監督に就任。通信制高校での活動で耳にした「団地の高齢化」に着目した。「団地は地域課題のるつぼではないか」。二〇年度から横浜市緑区の練習場近くにある竹山団地を部の寮にした。現在は全部員五十九人が団地で生活し、高齢者にスマホ操作や体操を教えたり、小学生の宿題を手伝ったり。団地内の食堂ではプロの料理人の指導を受けながら部員も厨房(ちゅうぼう)に立つ。選手として食事の大切さを学び、卒業後の自立につなげることも意識している。

 「サッカーは人と人が協力することを学ぶツール。プロになるなら、地域に貢献する本物のプロになってほしいし、他の仕事をしてもサッカーを続けながら自分の力を周りのために使う人になってほしい」。学生時代には教育者としての人生をイメージしなかったが、今は「学生と一緒に汗をかき、変わっていく様子を見るのがやりがい」と笑顔を見せる。(森田真奈子)

◆神奈川大サッカー部
 1929年創部。長年県リーグに所属してきたが、08年に関東の大学上位12チームでつくる関東大学1部リーグに初めて昇格し、現在は同3部リーグに所属。サッカーとそれ以外の形で社会に参加する「F(フットボール)+1」を掲げる。OBに昨年ワールドカップ日本代表として活躍した伊東純也選手らがいる。

2023年5月22日 東京新聞朝刊

https://www.tokyo-np.co.jp/article/251505