2023.07.07
「当事者中心」の姿勢に転換を 女性支援新法施行でどう変わる?
◆お茶の水女子大 戒能名誉教授が講演
来年4月に女性支援新法がスタートする。法施行で支援はどう変わるのか、法制定や基本方針の策定に携わった戒能民江・お茶の水女子大名誉教授の講演会が3日、県男女共同参画推進センターで開かれた。市民有志でつくる「ジェンダー平等埼玉」が主催した。(出田阿生)
新法の正式名称は「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」。昨年五月、議員立法で成立した。それに先立ち、戒能さんらが政党や議員への説明をした際、「なぜ対象が女性だけなのか」「男性も苦労している」と言われることが多かったという。
戒能さんは、女性は妊娠や出産の当事者であり、性暴力被害の数も圧倒的に多く、賃金格差など社会構造に起因する男女格差があることを指摘し「社会福祉には障害者福祉や児童福祉、高齢者福祉などの概念はあるが、ジェンダーの視点は欠けており、女性を対象とした新法の必要がある、と説明した」と語った。
これまでの行政による支援は、主に一九五六年制定の「売春防止法」に基づく「婦人保護事業」として実施されてきた。だがこの法律は「売春した女性」や「売春の恐れがある女性」の保護更生を目的として出発しており、それ以外の多様な需要に新法の枠組みで対応する必要性が指摘されていた。戒能さんは「旧来の保護するという“上から目線”ではなく、女性の人権を保障し、当事者中心の支援をするという姿勢の転換が肝要」と解説した。
新法では国や都道府県だけでなく「市町村」が支援の実施主体として明記された。講演会には自治体職員や議員らが参加しており、戒能さんは「実効性のある支援にはまず相談員の拡充が必要。市町村の首長や管理職の意識が大事」と呼びかけた。
会場からは「支援する側の待遇改善も必要だ」という意見が出た。また女性支援団体のメンバーからは「今や困難を抱える女性は特別な存在ではない。性産業に従事させられる若い女性の問題と、子どもの貧困は地続きになっている」という声が上がった。
2023年6月13日 東京新聞朝刊埼玉版