2024.02.19

「デマに惑わされないで」
トランスジェンダー攻撃に危機感
埼玉大・田代教授ら本出版

◆「女湯問題」など74の疑問に回答

 トランスジェンダーへの嫌悪をあおる言説やデマが広がっている状況に、専門家らが昨年末「Q&A 多様な性・トランスジェンダー・包括的性教育」(大月書店)を緊急出版した。「『心は女性』と言われたら女湯の利用を拒否できないのか」など、漠然とした疑問や不安に明快に回答し、誤解や偏見を解きほぐす。編者の1人、埼玉大の田代美江子教授は「デマを流す側の意図を知って、惑わされないで」と呼びかける。(柏崎智子)

 性的少数者を巡っては昨年6月、「LGBT理解増進法」が制定され人権擁護へ一歩前進した一方で、バッシングが激しくなった。特に標的となったのが、生まれの性と異なる性で生きるトランスジェンダー女性。「法が制定されると、男性器の付いた人が『自分は女だ』と言って女湯に入ってくる」「性別の区分がなくなり、女子トイレが廃止され、性犯罪が増える」など、女性の不安に付け込み、恐怖心をあおって対立させるような言説がばらまかれた。

 県内でも昨春、「介護施設の元職員」を名乗る人物が交流サイト(SNS)に「施設がトランスジェンダーへの配慮で職員用のトイレと更衣室を男女共用にし、職員は抗議したが、大野元裕知事からお褒めの電話があった」と書き込み、動画でも発信。県に多数の非難や問い合わせが寄せられたが、全くの事実無根で、大野知事が記者会見で否定する事態になった。

 バッシングの広まりの影響は大きく、ジェンダー教育が専門の田代教授の周りでも「なぜ少数の人の権利のために大多数が我慢しなければならないのか」と疑問を持つ学生や、これまで性的少数者の支援やジェンダー平等に取り組んできた側の中でも理解増進法に反対する人が出てきた。「ジェンダーに関心がある人ほど、バッシング側の言説を真に受けてしまう傾向がある」と話す。

 危機感を抱いた専門家仲間と話し合い、Q&Aの出版が決まった。田代教授や当事者団体代表ら6人が編者となり、性教育のほかハラスメント、政治などジェンダーにかかわるさまざまな分野の専門家22人が執筆。「LGBTQとは何か」といった基本知識から、トランスジェンダーを巡るバッシングの真偽、世界の性教育と日本の現状まで、計74の疑問に一問一答形式で回答している。

 女湯の問題では「身体的な特徴で判断する」とする厚生労働省の見解を示し、利用させなくても罰せられないと解説。「トランスジェンダーの権利を認めると性犯罪が増えるのでは」との問いには、米国の大規模研究で否定され、むしろトランスジェンダーの人々は被害者であることが多いことを紹介した。

 また、2000年代に性教育が攻撃されたことも振り返りながら、繰り返しバッシングが起きる背景を説明。右派の政治家や研究者、一部宗教団体がかかわり、「家庭が破壊される」「性犯罪のリスクが高まる」などあいまいな議論で恐怖をあおるのが特徴で、ジェンダー分野で政策などに進展があった時に激しくなると分析した。

 田代教授は「今回は明らかに法の制定の反動。誰かの人権が誰かの人権を奪う、という発想は間違い。性的少数者の困り事を考えることは、性差別の根本を考えることであり、女性差別を解決する道も広がることを理解してほしい」と話している。

2024年1月18日 東京新聞朝刊埼玉版

https://www.tokyo-np.co.jp/article/303534