2020.04.15
【書評】新・大学でなにを学ぶか
上田紀行編著
◆ニーズに応え多様な視点
[評]小西徳應(明治大教授)
本書を読んで、「学生に伝えたいこと」をテーマに西部邁(にしべすすむ)、ジャーナリストの石川真澄両氏が対談する学生企画の司会をした時のことを思い出した。教壇に立ったばかりの二十五年余り前のことで、発言に感心、賛同しながら進行に当たった。両氏は、教員は教室ではすべてを語ることができない、学生は想像力でそれを補う必要があると話された。
爾来(じらい)、授業で「学び」について語ることがあるが、多くの時間を割くことができず、言及するにとどまっている。誰が、いつ、何を、いかに学ぶかなど、扱うべき事柄が広範にあり短時間では語りきれない。まさに、学生の想像力に期待したいところだ。多様性をもつ「学び」について話す十分な機会がないのはどの教員も同じ状況だろう。
本書では十三人の大学教員が、多様な研究分野と各分野での研究内容、分析手法、学問に向かう際の態度など多岐にわたるテーマについて語っている。すなわち、問いを大切にする「学び」の実情や望ましい姿を独自に語ったもので、ほぼ重複なく、編者を含めると十四通りの「学び」観が示されている。まとめて語られることも、そうしたものを一挙に知ることもめったにない機会が提供されている。
提言内容の多くは、多数ある同様の書籍や、本書題名の元になった隅谷三喜男著『大学でなにを学ぶか』、さらには戦前の河合栄治郎著『学生に与う』にさかのぼって確認できる。だが本書はそれらのように、大学生活一般や学びの多様性について一人か少数が語ったものではない。
女子を含め大学への進学が飛躍的に増え、留学生と外国で学んだ経験を持つ学生が圧倒的に増えた。そうした中で、学生ニーズとそれに応じる教育内容が、さらに社会環境全般と大学の社会的役割が劇的に変化している今、「学び」について多様な視点と手法を提供しているのだ。ますます国際化が進む中、自己と相手、それらを形作っている文化と社会を理解するには、複眼的な視座と思考、それを支える「自身」の確立が必要だと改めて想像させてくれる。
(岩波ジュニア新書・946円)
1958年生まれ。文化人類学者、東京工大教授。著書『生きる意味』など。
2020年4月5日付 東京新聞