2024.01.05

千葉商科大
学生と挑む自然エネ100%大学

◆学長の構想浸透 教室断熱改修、自販機変更… 試み積み重ね

 自分たちがつくる自然エネルギーで、自分たちが使うエネルギーを賄う-。シンプルかつ大きな目標に、千葉商科大(千葉県市川市)が挑んでいる。地球温暖化を防ごうと、10年前に1人の研究者が描いた構想は、他の大学にも広がる。

 8月末、市川キャンパスの教室で学生ら約20人が窓際の壁に断熱材を張ったり、窓を二重にしたりしていた。「断熱はエコだけでなく命を守ること」と、省エネを啓発する学生団体の代表、北嶋寛太さん(20)。近隣の小学校でも断熱の大切さを伝えている。
 断熱の実績ははっきりと出ている。過去125年で最も暑かった今夏、断熱済みの教室は冷房の効きが早かった。冬でも壁面温度は隣接の教室より5・3度高いという効果があった。
 学生の提案を受けて2018年度には、38台あった自動販売機のうち、古い7台を撤去し、19台は省エネ型にした。電力消費量は推計で年間4万2千キロワット時から、2万7千キロワット時に減った。
 「自然エネルギー100%大学」への挑戦は、小さな積み重ねが欠かせない。担当の手嶋進准教授は「思い付いたことを調べて試すことをずっとやってきた」と振り返る。原科(はらしな)幸彦学長も交えた省エネ会議を隔週で開き、空調の運転見直しやトイレ洗浄の流量調整など約100件の対策を試行錯誤してきた。

◆「緊急時に立ちゆかなくなる」と訴え

 始まりは13年。日本のエネルギー自給率は、11年の東日本大震災後に1割を切った。当時、政策情報学部教授だった原科さんは「エネルギーの自給率を高めないと緊急時に立ちゆかなくなる。原発は合理性がない。自然エネ中心の社会に変えるべきだ」と訴えた。

 「まず、隗(かい)より始めよ」と動いた。大学の電力消費量を調べると、翌14年度に千葉県野田市の野球練習場跡で稼働する自前の大規模太陽光発電所(メガソーラー)の発電予想量で6割を賄えると分かった。稼働が始まると14年度の実績は、年間の発電量が一般家庭約800世帯分の336万5千キロワット時に上り、学内の電力消費量439万3千キロワット時の77%に相当した。
 理工系の学部を持つ大学に比べると、電力消費量が桁違いに少ないため、達成の手応えを得た。原科さんは17年に学長に就き、「自然エネ100%大学」にすると国内外に宣言した。
 軸としたのは、発電と省エネ。メガソーラーの太陽光パネルを1610枚追加し、年間発電量を約17%増やし、市川キャンパスの校舎10棟にも太陽光パネルを設置した。校舎照明を発光ダイオード(LED)に切り替え、電力消費量の25%を削減できた。
 19年1月、発電量が消費電力量を上回り、電力の自然エネ100%を達成。23年度には、使っているガスを電気に換算した分も含めて達成できる見込みとなった。

◆「生きた教材」 学生に「還元」も

 研究者のそろう大学という強みも生きている。原科さんは環境アセスメント(環境影響評価)の第一人者。手嶋さんはベンチャー企業経営などビジネス畑が長く、創エネ・省エネの費用対効果の検証や事業推進に手腕を発揮している。
 照明の省エネでは、学内に設立した「CUCエネルギー株式会社」が環境省の補助金を得て約3億円でLEDを購入し、同社と15年間のリース契約を結ぶことで、大学側の経費を年間3千万円に抑えた。校舎屋上の太陽光発電の自家消費により電気代は年間1200万円ほど節約できている。
 こうしたインフラ費用の節約により資金を教育の充実に振り分け、学生への「還元」につなげている。「生きた教材」である自然エネ100%の活動を知り、入学を決めた学生もいる。
 日本のエネルギー自給率は21年度も13・3%。石炭など化石燃料への依存度は8割以上で、その輸入額は22年度で35兆円を超えた。「例えば、そのお金で高断熱の建物をつくれば内需も拡大するし、光熱費も安くなる。夏も暑くないし、冬も寒くない。みんな幸せなんですよ」と原科さん。エネルギーの地産地消の実現を、「知の拠点」から社会へ働きかけていく。

◆上智大もあと数%

 原科学長らは自然エネルギーで学内の電力を賄い、脱炭素化を目指す大学の交流組織「自然エネルギー大学リーグ」を2021年につくった。参加する11大学のうち、千葉商科大と長野県立大が自然エネ100%を達成。上智大もあと数%で達成する。

2023年10月28日 東京新聞朝刊

https://www.tokyo-np.co.jp/article/286482